2016年2月8日の衆議院予算委員会で民主党の奥野総一郎議員の質問に対する、高市早苗総務大臣の答弁が問題にされていますね。
ちょっと遅くなりまして、すみませんm(_ _)m
法的に何が問題なのかを考えたいと思います。
具体的には、放送法、電波法と行政手続法(行政指導)についてです。あと、憲法も。
放送法について
まず、この法律の目的です。
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第一章 総則
まず、「放送」についての法律だということです。ラジオとかテレビの話です。
映画館の映画とか、新聞とか雑誌とかは関係が無いってことです。ここ重要です。
それで、この第1条を読んで、どう思います?
まあ、なかなか、国民=視聴者にやさしい法律なのね、って思いますか?
「不偏不党」 って書いてあるでしょう?
「そんなのムリっ」、っていうのが、なきゃいけない感覚です。
だってね。どんなメディアでも、具体的には、テレビ、ラジオだけでなく、 新聞でも、雑誌でも、広告が有るでしょう?広告主(スポンサー)がすごく嫌がることは書けるわけがない。
たとえば、自動車会社がスポンサーのドラマで、自動車事故で大変なことになる話は、ムリ。
保険会社がスポンサーの場合に、保険会社が保険金を出し渋るのと戦うドラマは、ムリ。
それに、そもそも、日本人は、マスコミに、中立性を求める、っていうことを、フツーに言っちゃう人が多いですけど。
産経だって、読売だって、朝日だって、どれもこれも、同じことを違うように報道しているでしょう?
そもそも、中立、ってどこですか?
自動車のギヤみたいに、ニュートラル(中立)の場所がはっきりしてますか?(最近、自動車のことを知らない人が多いから、わかんないたとえかも?)
だいたい真ん中だと、中立ですか?
日本人みんながかたよっていたら、その真ん中は、中立ですか?
外国では、宗教の新聞とか、政党などの新聞が、多くの人に読まれるようになって、メジャーになるっていうことがよくあります。
ある新聞が、どこの政党支持なのか、というのが、非常に明確なのです。
実際、民主党が政権を取ったときの前後、読売新聞は減っています。
そして、今は、朝日新聞が減っています。(いろいろ有りましたが)
別に、それで、いいじゃないですか。
そもそも、他人の名誉毀損をしているでもなく、 他人のプライバシーを侵害しているでもなく、テロの扇動をしているのでもないわけですから。
まあ名誉毀損とかはしてるかも?
なんで、放送に限って、不偏不党を求められるのかっ。
「なんで、こういうことを、放送に限って定めているか」の理由ですが、
1.放送の電波って、少ないでしょう、有限でしょう?ってことです。
2.新聞とかと違って、放送は時間単位でスポンサーに売るから、勝手にさせると、どんどん、商業的になっちゃう、ってこと、です。
1は、理系でない人には、わかりにくいかも知れませんが、
周波数(電波の波のサイクルの長さ)が近いとだめですし、周波数が高すぎるとだめだし、低すぎてもだめ。そして、テレビやラジオより高いところや低いところは、携帯電話やアマチュア無線や飛行機の無線やその他いろいろな無線が割り当てられているのです。外国とも協力しています。
最近、デジタルになって、少ない帯域(周波数の高い低いが狭い)で、良い画質やたくさんのチャンネルが放送できるようになりました(^o^)/
その分、チャンネルがすごく多くなれば、この1の理由も無くなる(完全には無くならない)のですが、少なくてすんだ分、他の電波(携帯電話の電波とか)の帯域が増えちゃったりしたのですね(T_T)/
さっき見た1条の次の第2条 定義と、第3条、どんな制約があるのか見ましょう。
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四 「国内放送」とは、国内において受信されることを目的とする放送をいう。
第二章 放送番組の編集等に関する通則
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こんなに、いろいろなことが求められているのですね。
特に、問題になるのは、
2号の、「政治的に公平であること。」
ですね。
そして、放送法や、放送法にもとづく命令(内閣が定める政令や省(この場合は総務省)が定める省令のこと)、放送法にもとづく処分に違反した場合は、総務大臣の権限で、放送業務の停止を命じることができます。(放送法174条)
そして、無線局の運用の停止(電波の停止=停波)などが、総務大臣の権限でできます。(電波法76条)
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放送法
第十章 雑則
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電波法
第七十六条 総務大臣は、免許人等がこの法律、放送法 若しくはこれらの法律に基づく命令又はこれらに基づく処分に違反したときは、三箇月以内の期間を定めて無線局の運用の停止を命じ、又は期間を定めて運用許容時間、周波数若しくは空中線電力を制限することができる。
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放送以外の電波も、放送の電波も免許制なのです。(ほんの一部、免許制でないのもありますが)
そして、放送業務も、認定が必要です。
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電波法
1号~4号は省略
そして、基幹放送局として、免許を受ける手続きについて、後の条文に書いてあります。
放送法には、NHKの根拠が書いてあります。そして、民間放送については、認定を受けなければならない、とか、認定の更新が必要だと、書いてあります。
所管は総務省なので、電波法とか放送法では、総務大臣という言葉が頻繁に出てきます。
表現の自由の問題
ある人が、何か、言論なり芸術などの手段によって、外部に何かしらの表現をすることを、他人に危害を与えない限り、国家権力は制限してはならない、ということです。
これは、「表現の自由」 の説明です。
放送で、何かを表現する場合も、表現の自由の「表現」ですね。特に、ニュースの場合は、表現の自由の中の報道の自由の問題です。
日本国憲法21条に書いてあります。
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第二十一条 集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。
2項は省略
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「他人に危害を与えない限り」 と上にも書きました。
これは、harm principle(ハーム プリンシプル)といって、 すべての自由権に共通する原則です。
日本語では危害原理と訳されます。
例えばですね。
名誉毀損について、考えましょう。
名誉毀損は表現の自由の問題です。
名誉毀損をすると、刑法の名誉毀損罪になります。
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2項は省略
そして、民法の不法行為として、損害賠償責任を負うことになります。
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(不法行為による損害賠償)
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国家が刑罰を課す、とか、民事で義務を負わせる判決を書くとか、これは、両方とも、表現の自由の制限なのです。
他人に危害を与える場合ですから、当然、憲法上許される制約ということになります。
憲法の人権の問題、特に自由権の問題は、国がする制限が、して良いものかどうか、の問題です。
してはいけない制限を法律が決めている場合、憲法違反の法律ということになります。
法律に問題が無くても、行政や裁判所が、憲法違反のことをする場合もあります。
危害原理について、自由権に共通する問題として書きましたが、
経済的自由権は、さらに他にも制限をかけて良い場合があります。
くわしくは別の機会に書きますが、社会権(労働者の権利や環境についての権利など)を大切にすると、財産権などを制限しなくてはならないからです。
表現の自由の限界はどこか? それはなぜか?
憲法学には、有名な、学説で、二重の基準論(ダブル スタンダード)というのがあります。
どういうことかと言いますと、
精神的自由権と経済的自由権では、違憲にするかどうかの判定基準(違憲審査基準)が違う、ということです。
精神的自由権の審査基準を、厳しくする、ということです。
(表現の自由は、精神的自由権の一つです。他には、思想・良心の自由、信教の自由、学問の自由などが有ります。)
理由は
・精神的自由権を不当に制約すると、民主主義の政治の過程(プロセス)自体が傷ついてしまう。
→取り返しがつかない。
・経済的自由権を不当に制約しても、民主政治の過程が正常なら、後から直せます。
思想の自由市場といいまして、いろいろな人のいろいろな意見が自由に表明されて、そして、自由に聞くことができる状態で、正しい意見が勝利して、人類が進歩できる、という考え方です。
いろんな人が、いろんな所で、いろんなことを、邪魔されずに、言えないといけません。
そうしないと、みんなが、情弱(情報弱者)になってしまうのです。
このブログは、足りない情報を補うことが目的です(^o^)v
(ちなみに、この思想の自由市場という話を頑張ると、マスコミの一方通行の独占的な情報は、すごく問題になります。でも、それを言っちゃうと、今回の報道の自由の話が元も子も無くなりますので(^_^;))
そこで、表現の自由の制約は、 ものすごく例外的なものなのです。よほどのことが無ければ、憲法違反だろう、と言えるというくらいになるのです。
そして、今、生きている憲法学者で、このことを違うじゃんって言う人はほとんどいないとは思いますが、日本の最高裁判所は、まだまだです。
(一応、二重の基準論については言っていても、経済的自由権の制限の話をするときに使っているだけで、精神的自由権の制限については、使わずに、甘々です。)
厳しい審査基準に、照らし合わせて、考える
内容については、具体的に重大な実害が無いのに、制限するのは、おかしいです。
また、どういう場合に制限するのかが明白でないといけません。
だって、前もって、あいまいに言われると、広い範囲のことについて、萎縮してしまいますでしょう?
そして、内容について、制限するのが仕方ないとしても、
制限は、最小限のものでなくてはなりません。
放送法は、違憲でないとは言い切れない、と思うのですが。どうでしょう?
「総務相、電波停止に言及」報道に驚く - 早苗コラム | 高市早苗(たかいちさなえ)
いろいろ言い訳をしています。
これだけ読むと、総務大臣としては、まともですね。なんくせをつける意味がわかりません。
ですが、最近やっている行政指導とかをからめて考えると、おや?とは思います。
行政指導というのは、行政が行った指導について、あくまでも、国民が協力するかどうかは自由、自主的にやるものです。高市総務大臣もそう言っていますね。
ここがミソなのです。
強制じゃないよ。あくまで、そちらの自由ですよ、と。
でも、強制ではないから、「不当な行政処分を受けた、回復してくれ」という、行政不服審査法や行政手続法のような制度、手続きは無いのです。
(一応、行政手続法に、後から(2015年施行)36条の2を加えて、救済っぽいことは書きましたけどねぇ。意味無いのよね。)
(この行政手続法の所管も総務省なのよね。電波とか放送は、昔は、郵政省だったんですがね。大昔は逓信省。)
行政指導について、条文も確認しましょう。
行政手続法
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1号、3号、4号と7号~は省略
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「指導、勧告、助言」とか書いてあるでしょう。
いるでしょう?面倒くさいいやなやつほど、「命令だ」と言わず、「アドバイスだよ」と言う。
命令だったら、「なんだと?」と言えます。
アドバイスだと、ありがたく頂戴しないといけないわけですよ。その先がこわいですからね。
つまり、「真綿で首を締める」のが行政指導です。日本独特の制度です。こんなのばっかし(^_^;)
行政指導の問題はこの辺にしましょう。
行政指導を守らなかった先に有るものが問題です。
先にも書いたように、法律が、そもそもしょうもない作りなのです。
予算委員会で大臣をいじって、中継されて、報道されて、喜ぶんでなくて、質問の最後でも言っていたように、最初から総務委員会で話すべきです。
国民にとって、大事な、予算審議の時間をなんだと思っているのか。