追記:
この私(もっとん)の投稿は、組織犯罪処罰法改正案を国会で審議している最中のものです。



先日、Facebookで、遠山清彦衆議院議員が組織犯罪処罰法改正案について話す動画が公開されました。(Facebook公明党沖縄県本部)

内容は、(おそらくは支持者向けに)、組織犯罪処罰法改正案が問題無いというものです。


引用の下地に黒字は、条文などの引用です。
引用の下地に青字は、遠山氏の発言です。
白地に青字は、最初からの経過時間、動画の中の表題。
なお、リンクも青字です。
赤字は反論そのものではなくて、遠山議員の話し方についての注釈です。

0:00
爆弾とか化学兵器を使ったテロなんていうのは、これ、日本でも、オウム真理教のサリン事件ていうのが有りましたけども、国際社会の中で、この、多くの無実の人が死んでしまうような犯罪を、犯罪組織として、大規模な犯罪を計画をして、えぇ、それをやろうとする集団が残念ながら有る、と。
はい。それで、国連では、テロ対策のための13の条約を作って、日本も締結して、法整備(予備罪など)も済んでいますね。
外務省サイト、テロ防止関連諸条約について

もともと、日本では、所持だけ準備だけで処罰されるというのが外国と比べても多かった上での話です。
               
それを止めるためには、計画して準備をしている段階から捕まえて止めないとだめでしょう、ということで、まずは条約ができました。
これが最近よくメディアでも出てる、TOC条約というものでございまして、このTOC条約というのは、ほとんどの国が入ってます。
ところが日本が(笑)入ってないんです。
「テロを防ぐためのほとんどの国(187)が締結する条約を、日本も締結してテロ対策しなければ」と聞こえます。

締結すべきなのはもちろんです。

「それを止めるためには」がウソ

TOC条約=英語名:Convention against Transnational Organized Crime
日本名:国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約(日本外務省訳)
略称:国際組織犯罪条約

国際組織犯罪防止条約全文 (外務省のサイト)

これは、マフィアや暴力団対策のための条約で、テロ対策ではない。真っ赤なウソ


第一条 目的
 この条約の目的は、一層効果的に国際的な組織犯罪を防止し及びこれと戦うための協力を促進することに ある。

第二条 用語
 この条約の適用上、
(a)「組織的な犯罪集団」とは、三人以上の者から成る組織された集団であって、一定の期間存在し、か つ、金銭的利益その他の物質的利益を直接又は間接に得るため一又は二以上の重大な犯罪又はこの条約に従って定められる犯罪を行うことを目的として一体として行動するものをいう。

「金銭的利益その他の物質的利益を直接又は間接に得るため」に犯罪をする集団をは、みなさんご存じ、暴力団です。
金銭的利益を得るために犯罪(シノギ)をする集団のことです。

この条約の各国のための立法ガイド作成の中心的人物、パッサス教授も「テロ対策でなくマフィア対策」と言っています。

ちなみに、これでテロ対策をやろうとしても難しい。
(たくさんある)単独犯や単発のテロに対処できない。当然ですが。

日本がこれに入るために、今回、この、えぇ、組織犯罪処罰法改正案というのを出して、で、あのぉ、衆議院を通過したということなんですね。

そもそも、組織犯罪処罰法という法律自体、暴力団対策の法律で、警察で担当している部署は暴力団対策のところです。


1:03

TOC条約に入るために必要な法整備
このTOC条約で、
この条約に入る国はですね、懲役、禁錮刑、4年以上の重大な組織犯罪を犯した者を全部取り締まる法律を国内で準備をして下さい、と。
確かに条約5条にそう書いてあるんですが、これは一つの目安にすぎません。
重大な組織犯罪を未然に防ぐことが大切ということです。
立法ガイドでも、各国の憲法や法体系の中で、条約の趣旨に沿った立法ができれば良いということになっています。
実際、条約締結後に、新たな法整備をした所はほとんどなく、新に法整備をしたところも、条約の5条にぴったり合わせた国はありません。
共謀罪に限って言えば、もともと有ったのはイギリスなどちょびっと、あらたに作ったのもちょびっと。
そもそも条約5条には「合意」「参加」と書いてあって、「合意だけ」とか「合意=共謀」とか書いていないわけですが。
日本には、外国と比較しても、所持とか準備だけで処罰される犯罪規定がたくさん有ります。

政府がこの法律を最初出すときに、626の犯罪について、この、そし、えぇ、テロ等準備罪を適用すると言ったんですが、言ったんですが、

公明党、漆原衆議院議員の公式サイト公明党法務部長としての法案解説。 当時で615個の犯罪について、組織犯罪に限るから、これで問題が無いとの趣旨の発言をしています。
漆原氏公式ページ

公明党がですね、「いやいやいや」と。ね。そんなあのぉ。「たしかに、その、禁錮4年以上の罰がついている犯罪っていうのは600以上有るかもしれないけれども、この 組織犯罪として犯される可能性の有る犯罪はもっと少ないはずだ」と。
「だから、対象を絞り込め」と。
で、要は、犯罪集団がおかしそうな罪だけに絞り込んだら、626から、さ、277になったんです。
数が減っても実質変わっていません。
過失犯とか、共謀が有り得ない(過失を共謀とか共同計画とかってないですよね?)を抜いただけです。
最初から、「減らさなくても良い」と漆原さんが言ってた通りなのです。

公明党がブレーキ役を果たしているとの幻想を見せてるだけです。

あ、違いました。
実質的に減らしています。
暴力団対策に必要な、警察や企業や政府などとの癒着についての犯罪や、選挙違反などが、4年以上の基準に当てはまるのに、どさくさにまぎれて、対象からはずされました。

この277の罪をするために、(編集の跡)準備行為をしたら、犯罪を行う前から警察に捕まるよ、という法改正をしました。

「準備行為をしたら」
これについては、後で出てきますので。

これによって、さっき申し上げたような、多数の無実の方が亡くなるようなテロを、起こる前に防ぐ、と、いうことができるし、TOC条約に日本もこれで入ることができる。

テロ対策にならない。単独犯には無関係。単発にも無関係。
対象犯罪のほとんどがテロと無関係。
TOC条約はテロ対策でない。

2:32 

TOC条約締結に法整備は必要か
野党の中で特に民進党のみなさんが、国会の審議で、法改正しなくてもね、入れる、とおっしゃってるんですが、ま、だったらですね、自分たちが政権とってた3年3か月の間に、入ってれば良かったんですね。
入んなかったわけです。
それに対して、「なぜですか?」。説明有りません。
つまり、彼らは、自分たちが政府与党のときにもおんなじこと言ってた。
これについて、民進党は言い訳できないでしょう。

自分たちが政権になって三年もやってたのに、この条約に入ってないんですね。
今になって急にね、野党だから、責任が無いので、こんなのしなくたって入れるんだ、って言ってるんですが、実はやらないと入れないから、彼らが政権のときも入れなかった。
なので、今回、やることによって、入れるんですね。はい。
そういうことです。はい。

なぜ、民進党も「TOC条約に入るために共謀罪だ」と思っていたか?
法務省の官僚たちが、「共謀罪を4年以上の犯罪を対象に作らないと条約締結できないよ!」という大ウソを吹き込んだ結果、不勉強な政治家がそう思い込んだだけです。
民進党をかばう気はありません。
しかし、今の与党が正しいというわけではありません。
ウソなのです。



03:20
「内心の自由」を侵害するか?

えー、内心の自由が侵されるということは、これは有りません。

なぜかというと、あのぉ、今回の法律というのは、3つの要件が無ければ、そもそも捜査の対象、監視の対象にならない。
で、3つの要件って何かっていうと、

犯罪集団のメンバーにならなければいけない。
で、これは、普通の会社とか労働組合とか宗教団体、文化団体はいっさい含まれません。はい。
じゃ、犯罪集団ってなんですか、と。
わかりやすくいえば、暴力団。
メンバーになれば、それはそういう対象になるかも知れません。
しかし、多くの人はなってませんので(笑)、そういう人たちはまったく心配することはない。
「わかりやすくいえば、暴力団。」

日本は、暴力団大国なので、暴力団対策の法律も進んでいます。
暴力団対策法を根拠に、「暴力団」は「指定」されています。
そして、さまざま特別な取り扱いを受けています。
なぜ、「指定暴力団に限る」としないのでしょう?

組織的犯罪集団の定義はあいまいです。法人でなくても、団体の一部の団体でも、途中で性質が一変しても、認められます(政府の答弁)

「人権団体や環境保護団体も対象になる」と法務大臣も答弁しました。

同時に、今度は実際に具体的な犯罪を計画を、えぇ、しなければいけない、ということになります。
「だれかを殺そうとかなんとか」というですね、えぇ、いうことは、実際に、そういうことを計画をして、準備を、準備の行動をね、たとえばピストルを準備するとか、落とし穴を掘るとか、いろいろな準備行為が有るわけですけれども、そういうことをしなければ、そもそもそういう対象になりません。

「実際に具体的な犯罪を計画をしなければいけない」


条文には「計画」としか書いてません。「具体的な」と書いてあったとしてもおまじないです。
たとえば、殺人「人を殺した」(刑法199条)は目に見えます。未遂でも。
計画は、いくらでも解釈が可能です。今まで有った普通の犯罪とはまったく違うものなのです。

「準備を、準備の行動をね、たとえばピストルを準備するとか、落とし穴を掘るとか、いろいろな準備行為が有るわけですけれども、そういうことをしなければ、」

これと、条文のどこにも書いていない「テロ等準備罪」という言葉を聞くと、犯罪の準備をすると処罰されるのかな? と思いますよね?

【追記】この動画が公開された後に、条文に「テロ」の文字が盛り込まれました。

問題1
ところが「計画」だけで犯罪が成立します。
与党議員などは「「計画」と「準備行為」両方あわせて構成要件(あとは実質的違法性と責任が有れば犯罪成立)だ」と言います。
しかし、これはウソです。
刑法を勉強したことのある人の常識で、処罰条件の書き方になっています。
処罰条件っていうのは、「それがあれば処罰しますという条件で、犯罪成立とは関係が無いもの」をいいます。
また、「だれか一人が準備行為をすれば良い」という答弁がされています。

問題2

たとえば、殺人の準備をして犯罪になるなら、たとえば、拳銃所持とか殺人予備でOKです。単独犯でもOKです。ご存じのように大昔からです。

改正案には、
「その計画に基づき資金又は物品の手配、関係場所の下見その他の計画をした犯罪を実行するための準備行為が行われたときは、」と書いて有ります。

「資金」「の手配」=拳銃を買うお金の準備、ナイフを買う準備、窃盗をするためのカバンを買うお金の準備でOK、ということです。
「その他」と書いてあるので、なんでもありです。

「犯罪と刑罰は、あらかじめ明確に法律で定めなければならない」という罪刑法定主義にも反します。(憲法31条で保障)

なんで、「窃盗」を出すの?と思ったあなた。
対象犯罪のほとんではテロでなく「等」なのです。窃盗も対象です。

条文などの資料は、他の投稿 → 
共謀罪って何なの?やばいの?やばくないの?

4:30
1億総監視社会になるか?

それから、あのぉ、監視社会になるんではないか、という、あのぉ、意見が、新聞等でおどっておりますけれども、

さも、新聞が大げさにさわいで、政権批判のための「ためにする批判」のように騒いでいるように聞こえますね。


あのぉ、一番わかりやすい話をします。

「わかりやすい話」と言われると、
「わかりやすく話してくれてありがたいな」とか
「『わかりやすい話』をわからない人はバカ。わかる自分は大丈夫。」と思っちゃう。

あのぉ、一人の人を24時間完全に、あのぉ、行動をですね、監視するためには、何人の捜査員が必要かというと、ま、これは、普通はですね、20人以上必要だと言われています。
そうしますとね(笑)
あの、よく、野党のみなさんが、1億総監視社会とかね、そういう、あのおおげさな言葉使ってるんですけども、一人の人間を行動監視するのに20人の捜査員必要だとすると、一億人監視するには、20億人ぐらい捜査員いないとできないですよね。
だから、要するに、そもそも無理なんです、そんなことは。
「日本にいるすべての人を同時に警察官目視個別の電話盗聴などで監視することは不可能」というのは、その通りです。
そんなことを言う人は、遠山さんがおっしゃる「わかりやすい話」がわからない人ですね。
そんなこと、普通のマスコミは誰も言っていないんです。

下は、法務大臣の答弁です。
「合意の手段を限定する方向は考えていない」
「メールやLINEでも合意が成立する」


ネット上のものは、ウェブのフォームに入力したものでもなんでも、傍受することさえできれば、コンピュータにおまかせで分析できます。
Googleとかで、なぜ検索したら該当のサイトがいっぱい出てくるかというと、日ごろからコンピューターが自動でリンクをたどって情報を集めているからです。
防犯カメラもデジタル化してます。変な方を向いている画像やいつもと違う化粧や服でも、誰かを特定するのは、今、そんなに難しいことではありません。

密告も有りますよ。
戦前も密告が横行したそうですからね。

尾行とか通常の通信傍受だって、あやしいと思った人に対してはできるわけです。
むしろ、狙い撃ちになるわけです。
遠慮して「あやしいと思った人」と言いましたが、「捜査したい人」「捕まえたい人」と言い換えることもできます。


そもそも、なぜ、「今回の法案だと監視社会になる」という人が多いのでしょうか?別に今回の法案は関係無いんじゃないの?

普通の犯罪は、結果や危険が起こってから犯罪成立です。
殺人なら、「人が死んだ」で既遂。(殺す故意だけど)「死んでない」が未遂。

その前の段階で監視しないと、立件できないのです。
今まで有った予備罪についても言えることですが、今回の法案は予備罪よりさらに前の段階(計画=共謀)で、かつ、対象犯罪が飛躍的に増えました。

5:25

警察が拡大解釈しないか?
今回の法律も、裁判所の令状が無ければ、あのぉ、警察がね、勝手に捜査とか、家宅捜索とか、あのぉ、できませんよ、というのが維持されておりますし、適正な捜査を確保するということが、法律の中に書かれました。
つまり、警察当局が悪用してね、国民の人権を侵害することが無いように、っていうのは、幾重にも何重にも歯止めがかけられておりますので、
幾重にも何重にも歯止めがかけられておりますので、」と。
最後に、言ったもの勝ちの、とどめの一言ですね。

裁判所は、警察が提出する資料しか見れません。
最近の却下率を見てみましょう。法律文化社のページから
(法律文化社は裁判官や弁護士、学者などが読む雑誌などを出版している有名な会社です)

捜査令状の却下率 0.08%

つまり、警察が捜査令状を請求した場合、10,000件に8回しか却下されていない、ということです。

【参考】
通常逮捕 0.04%
緊急逮捕 0.3%  

「適正な捜査を確保するということが、法律の中に書かれました。」

こんな「おまじない」に効果が有るでしょうか?
シートベルトが努力義務だったとき、安全を考えた人は別として、「義務だから着用する」という人がいたでしょうか?



遠山議員が、あえてこのような話し方、このような内容で、このような法律を通そうと、支持者に訴えるべく、動画を作成して、Facebookに投稿がされたのはなぜでしょうか?
まったく、疑問が無い、立ち止まって考える必要の無い法案だと思われますでしょうか?

なお、共謀罪について、今回の法案を含めて、基本から解説する投稿をしました。

共謀罪って何なの?やばいの?やばくないの?


よろしければこちらもお読みいただければ、と思います。
資料のリンクの用意も有ります。