死刑廃止論全般のまとめは、数日前の投稿に書きました。

死刑の話をすると、必ずと言って良いほど、(廃止論者の側からは出なくて)存置論者の方から出てくる話がいくつかあります。

それは
「死刑を廃止してても、現場で射殺しちゃえば同じだし、むしろひどくない?」
ということです。

誤解が多く含まれています

(だから、廃止論者は言いません)。



そこで、まず、誤解を解きましょう。


国によっても多少の違いはありますが、警察官が武器を使うのは、犯人の逃走を防止したり、人質などを守ったりするためです。
やたらめったら発砲して良いとなると、法治国家ではなくなります。

発砲した結果、たまたま、標的が死んでしまった(発砲そのものの是非はともかく)場合も考慮されるべきことではありますが、
発砲したら、ほぼ死ぬだろうと思って発砲する場合、正当防衛の要件が必要であろうと思います。

そもそも、正当防衛って、何でしょうか?


1.まず、正当防衛にならない例

AさんがBさんをナイフで刺して逃げた。
Bさんはケガをしながらも、逃げるAさんを追いかけて、自分のナイフでAさんを刺した。

これは絶対に正当防衛にならないケースです。


2.次に、正当防衛になるケース

Aさんが、ナイフを構えて、Bさんに近いところで、Bさんを刺そうと、上半身を本気で刺そうとして、よけるBさんに対して、何度もナイフを突き出してきた。
Bさんは、持ってるナイフで、Aさんを刺した。
Aさんは首に傷を負って、出血多量などで死にました。

何が違うか、と言いますと、
1は、AさんがBさんを刺した後で、Aさんはもう攻撃をしてこない(逃げた)のに、BさんはAさんを刺してます。

これは、AさんのBさんに対する傷害罪、と、BさんのAさんに対する傷害罪が、2つ成立するということです。(動機はたぶん仕返しでしょう)

2は、Bさんとしては、Aさんに殺されるか重傷を負わされる危機が迫っている。それを防ぐために、BさんはAさんを攻撃した。
これは、
AさんのBさんに対する暴行罪または殺人未遂と(Bさんがケガをすれば傷害罪)
BさんのAさんに対する(殺人の構成要件に該当する行為だけれども)正当防衛で違法性が無いから、無罪。
(銃刀法違反とかは、この場合、考えてません)


ということになります。

日本(他の国でも現代の文明国)では、復讐とか決闘は禁止されています。

正当防衛は、なぜ、正当防衛になる(違法性が無くなる)か、といいますと、
緊急事態だということと、
不正な(違法な)攻撃に対して、
守るべき利益(生命など)と防衛の結果がバランスがとれている(緊急なのである程度で良い)。

以上は、日本の場合で、国によって違いまして、外国は、もうちょっと緩い所が有ったりします。

刑法

(正当防衛)
第三十六条  急迫不正の侵害に対して、自己又は他人の権利を防衛するため、やむを得ずにした行為は、罰しない。
2  防衛の程度を超えた行為は、情状により、その刑を減軽し、又は免除することができる。


正当防衛についての誤解が解けました。

他に、緊急事態のときに、違法性が無くなる(通説)ものとして、緊急避難が有ります。

正当防衛と同じ所、違う所。
だれかに、急な危険が迫っているのは同じ。
でも、悪いやつが攻撃してくるわけではない
(だれかの適法な行為だったり、野生動物や自然(土砂崩れとか)だったり)
避難した(文字通り、危険(難)を避けた)結果、その被害を受けるのは、別の(悪くない)人

どういう場合かと言いますと、
たとえば、
・野良犬が追いかけてきて生命の危険を感じた人が、通りかかった家の玄関ドアのかぎが開いていたので、勝手に入った。(緊急避難でなければ、住居侵入罪)
・従業員がオフィスの火災から逃げるために、窓ガラスをたたき割った。(緊急避難でなければ、器物損壊罪)

刑法
(緊急避難)
第三十七条  自己又は他人の生命、身体、自由又は財産に対する現在の危難を避けるため、やむを得ずにした行為は、これによって生じた害が避けようとした害の程度を超えなかった場合に限り、罰しない。ただし、その程度を超えた行為は、情状により、その刑を減軽し、又は免除することができる。
2  前項の規定は、業務上特別の義務がある者には、適用しない。



本論

次に、

死刑と現場射殺を比較

してみましょう。

   死刑               現場射殺
1.刑罰            刑罰でない(人質などの人命を守るためのもの)
2.裁判をやっている      裁判をやっていない。
3.現行犯逮捕でない場合がある 現行犯である(少なくとも現行犯の認識がある)

もし、仮に刑罰の代わりとして、現場射殺が行われているのであれば、それは絶対にいけません。
裁判をやらずに刑罰を執行するのは絶対にいけません。
しかし、逆にいえば、刑罰でないからこそ、刑罰の執行が正当化される論理(適正な手続き=裁判をした)とは違った論理で行われているのです。(そうでなければいけません)

日本の警察は、やたらと発砲しないようですね。

死刑廃止国のヨーロッパなどと比べる人も多いようですが、アメリカほどではないにしても、日本より銃犯罪が多い(銃を持ってる)ので、ある程度、発砲をするようになってしまうようです。
しかし、それでも、発砲が適切だったかは、後で警察官などが責任を問われることはあるようです。

けっして、死刑を廃止しているから、代わりに、現場で凶悪犯を射殺してしまおう、ということではないです。
仮に、そういう警察官などが個別にいたとしても、正当化される法システムにはなっていません。

仮に外国が悪いことをやっていたとしても、日本の存廃論に理論的な影響は有りません。
「日本も死刑を廃止したら、現場射殺が増えると」いう変なことを言う人がいますが、上に書きましたように、治安状況、銃犯罪の量などの違い、警察官の人たちをどこまで信頼できるのか、ということ考えずに言っちゃいけません。


最近、テロを防止する観点で、国内外で、共謀して実行に移す前に積極的に取り締まったり、問答無用の対応が正当化されるような空気になっています。大きな問題です。
もちろんテロは、前もって防がなければいけませんが。
人権を保障した捜査をしつつ、かつ、テロを防ぐ、これをどうすれば良いか、正直、もっとんもわかりません。


日本の警察官が、武器を使うときの条件について

警察官職務執行法

(武器の使用)
第七条  警察官は、犯人の逮捕若しくは逃走の防止、自己若しくは他人に対する防護又は公務執行に対する抵抗の抑止のため必要であると認める相当な理由のある場合においては、その事態に応じ合理的に必要と判断される限度において、武器を使用することができる。但し、刑法 (明治四十年法律第四十五号)第三十六条 (正当防衛)若しくは同法第三十七条 (緊急避難)に該当する場合又は左の各号の一に該当する場合を除いては、人に危害を与えてはならない。
一  死刑又は無期若しくは長期三年以上の懲役若しくは禁こにあたる兇悪な罪を現に犯し、若しくは既に犯したと疑うに足りる充分な理由のある者がその者に対する警察官の職務の執行に対して抵抗し、若しくは逃亡しようとするとき又は第三者がその者を逃がそうとして警察官に抵抗するとき、これを防ぎ、又は逮捕するために他に手段がないと警察官において信ずるに足りる相当な理由のある場合。
二  逮捕状により逮捕する際又は勾引状若しくは勾留状を執行する際その本人がその者に対する警察官の職務の執行に対して抵抗し、若しくは逃亡しようとするとき又は第三者がその者を逃がそうとして警察官に抵抗するとき、これを防ぎ、又は逮捕するために他に手段がないと警察官において信ずるに足りる相当な理由のある場合。

死刑廃止論全般のまとめは先日の投稿に書きました。