安倍首相が、憲法に、緊急事態条項を盛り込むことを、積極的に考えているようです。

そこで、

緊急事態条項、って何?

緊急事態条項って、有った方が良いの?悪いの?

ということを、書きます。

まず、 緊急事態条項が有った方が良いかも、っていう話から。


憲法の基本

憲法は、

1.法律は国会で作って、

2.内閣が法律を執行して、
3.何かあったら、裁判所に、法の解釈適用をすることで解決してもらいましょう、
となっています。

その際、 1.人権を侵害するような法律は作ってはいけないし、
2.人権を侵害するような行政、
3.人権を侵害するような裁判をしてはいけない、
ということになっています。

あくまでも、「国家権力を制限することで人権を守るために憲法を作った」(立憲主義)が基本です。

このシステムは、昔から、頭の良い人が、たくさんの苦労をして考えたものだけあって、よくできています。 でも、欠点も有ります。

人権を守るような憲法・法律で、普段通りの行政をしていると、かえって、国民・住民の生命・財産が危険になる場合がある。
その場合、普段通りの手続きで対処しようとすると、遅くて間に合わない。
こういう
緊急事態にどうするの?

憲法は国民の人権を保障して、幸せになる基礎を作るためのものなのに、 憲法を守っていたら、かえって、国民・住民が、どんどん死んだり、道路や建物が壊れたり、というときに、「憲法を守りましょう」ってふざけたことを言うのか、って話です。

ここでいう、緊急事態(非常事態ともいいます)は、
1.海外から侵略された
2.内乱
3.大災害 などです。

なので、国家緊急権と言いまして、 「緊急事態に(憲法を守ったら、かえって、国民を守れない、っていうとき)に、 国が無くなるのを防ぐために、秩序回復(普通に憲法が機能する状態に戻す)のために、 憲法通りのことをしないという権限」が、国家にもともとあるんじゃない?っていう考えがあります。

ただ、認めるにしても、
・そもそも、こういう権限があるってことと(国家緊急権の存在)
・どういうときに、この権限を使えるのか?(行使の条件) ・具体的にどういう権限が認められるのか?
・いつまで認められるのか?
・やっちゃいけないことをしたかどうかのチェックを、どうやってするのか?

などを、憲法に書いていた方が良いのではないかな? ということが多く言われています。

ただ、国家緊急権を認めて、いざというとき、やりたい放題じゃ困るわけです。

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ここで、勘違いしてはいけないこと
・国家緊急権を認めることと、
・緊急事態条項を定めるべきかどうか、
という議論は別だということです。

国家緊急権の存在を認めない→ end
国家緊急権の存在を認める → 緊急事態条項を作らない → end
               緊急事態条項を条文とする→ 緊急事態条項をどのように定めるか
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日本は、憲法に緊急事態条項
有りません。

(憲法54条2項ただし書きの、参議院の緊急集会の制度は、一応、緊急のときにそなえたものですが、緊急事態条項とまでは言えません。)

明治憲法(大日本帝国憲法)には、ありました。
緊急勅令(きんきゅうちょくれい)(第8条)、戒厳令(かいげんれい)(第14条)、非常大権(ひじょうたいけん)(第31条)です。
 第八条 天皇ハ公共ノ安全ヲ保持シ又ハ其ノ災厄ヲ避クル為緊急ノ必要ニ由リ帝国議会閉会ノ場合ニ於テ法律ニ代ルヘキ勅令ヲ発ス
 此ノ勅令ハ次ノ会期ニ於テ帝国議会ニ提出スヘシ若議会ニ於テ承諾セサルトキハ政府ハ将来ニ向テ其ノ効力ヲ失フコトヲ公布スヘシ

第十四条 天皇ハ戒厳ヲ宣告ス 戒厳ノ要件及効力ハ法律ヲ以テ之ヲ定ム

第三十一条 本章ニ掲ケタル条規ハ戦時又ハ国家事変ノ場合ニ於テ天皇大
権ノ施行ヲ妨クルコトナシ

天皇が出す命令のことを「勅令」といいますが、法律より下です。
緊急勅令」は、緊急命令(緊急事態のときに、議会から独立して、政府が発することができる命令で、法律と同じ力がある)の一種です。
戒厳令は、緊急事態のときに、全国または一地方を軍が警備する必要があるので、行政や司法の権限の一部を軍司令官に移行する制度。 非常大権は、戦時または国家事変のときに、国民の権利の全部または一部を停止することができる、という天皇の大権。

海外では、
フランスの憲法に(第16条)に、大統領に非常措置大権が書いてあります。
ドイツの憲法には10a章に、たくさんの条文で、くわしく書いてあって、他の章の条文でリンクしているものもあります。
イギリスアメリカは、憲法には書いてなくて、法律である程度対処しています。 (マーシャル・ロー(martial law)=戒厳令)
(もっとも、イギリスは、「憲法」っていう、一つのまとまったものが無いんですが(;^_^A  )
ここまで、有った方が良いかも、という話でした。



次に

緊急事態条項って、やばいんじゃないの?

という話


やっぱり危険なわけですよ。
決め方にもよりますが、
人権の制限を認めたり、
首相とかに権限を集中させたり、
法律でできないことになっていることも国会で話すことなく認めたり、
軍隊に警備をまかせたり、
っていうのはですね。
一時的にせよ、危ないでしょう?

実際、ワイマール憲法という、なかなか良いと言われていた、戦前のドイツの憲法が、大統領の非常権限を認めていたわけですが、これを利用して、独裁を勝ち取ったのがヒトラーなのですね。
ヒトラーが首相になったあと、
2つの大統領令を、大統領に出させて、
その大統領令で、共産党と社会民主党などの議員を逮捕して、
出席できない議員を、議会の議員の数に入れない、議院運営規則改正案を通して、
残った党の人を、ある程度、味方につけて、 3分の2以上の賛成多数で、全権委任法を成立させました。
(憲法改正手続きは、(立法(法律を作る)と同じだが、二院とも)、2/3以上の出席と2/3以上の賛成が必要)
この全権委任法は、立法権を政府にゆずって、憲法に違反する法律でも有効(国会・第2院と大統領権限を除く)というもの。

緊急事態条項に反対する方々が、ヒトラーの例を持ち出すのはこういう背景あります。

でも、かなり複雑ですし、ワイマール憲法の条文に問題が有ったんですよね。
だから、ヒトラーとナチ(国家社会主義ドイツ労働者党の略)の独裁を経験したドイツが、緊急事態について、今の憲法(ドイツ共和国基本法)に書いて、でも、手続きについて、ものすごく細かく書いているのは、すごい賢いのです。

何が大事か 口だけ、憲法を守る、って言っても、意味が無いのです。 憲法はあくまでも、国民を守る手段なのです。
改憲とか、護憲とか、って何それ?に詳しく書きました。) 憲法で国民を守れない事態のときは、国民を守るために、一時的に憲法を否定しなくてはいけないのです。 だからといって、なんでもかんでもやらせては危険です。 権力者は、「国民のため」と言って、権力を持とうとします。 憲法秩序の回復が目的(普段通り憲法が機能して、個人の人権保障ができる状態の回復が目的)
と書いて、 ・どういう場合を緊急事態と認めるか、くわしく書いて、 ・遅くならないように、でも、できるだけ民主的な手続きをとって、権限を集中させて、 ・できることをある程度きちんと決めて
(細かく決めすぎると緊急事態条項を決めた意味が少なくなったり、無くなったりします。)
なるべく早く、権限の集中を終わりにさせるように、工夫して、 ・後から、問題が無かったかのチェックをできるようにする。

そうでなければ、権力が暴走することを許して、憲法の自殺になってしまう。

自民党案はまさに憲法の自殺です。
こんな条文を作ろうと思う人間の、憲法理解度はゼロと言ってよい。
もっとんは、正月にスター・ウォーズの今までのを見ました。 実は黒幕だった議長に、非常大権をあげてしまって、大変なことになっちゃう、というストーリーがありました。 あ、これじゃん、やばいじゃん。って思ったんですが、弁護士さんに、先に言われてしまいました。

これも、あげっぱなしになるような安易な決め方だったのですが。



自民党のブレーンになっている
日本政策研究センターが、当然ながら、緊急事態条項の必要性を語っています。 共産党は、反対しています。 民主党が記者会見で、法律があるし、憲法に緊急事態条項は不要、と言っています。